
クセが強い(?)スパイスカレー屋のブレない楽しむ心・自分らしさ
JR宇野駅から車で約10分。細い坂道を上った先に、存在感のある長屋が見えてきます。
ここは2023年8月にオープンしたスパイスカレー屋「Maholova」(マホロバ)。スパイスのいい香りが漂う店内で話を聞いたのは、店主の池上聡さんです。
「家族に好評だったスパイスカレーを、もっと多くの人に振舞ってみたい」との想いから、シェアショップUZでの間借り営業をスタート。現在店を構える長屋と出会ったことを機に、実店舗のオープンを決めました。その背景には、地元・玉野の特産品「大藪みかん」を後世に残したいという想いもあります。
店のInstagramも話題で、常に等身大で店を営む池上さん。オープンからの1年半を振り返りながら、スパイスカレーへのこだわりやお客さんとの関係性、そして商品化を控える大藪みかんのクラフトコーラについて、大藪みかんへの想いなどを聞きました。
宇野港メディアでは、岡山県の港町・宇野港エリアから、玉野市にゆかりのある「人物」にスポットライトを当て、飲食店やまちの魅力をお伝えしています。
楽しく続けるために、メニューや営業形態を増やす

―2023年8月にオープンしたMaholova。あっという間に1年半が経とうとしていますね。
ほんと、あっという間でしたね。2023年の記憶がほとんどないくらい……。とくにオープンしてからの3ヶ月くらいと、2024年5月~9月は嬉しい悲鳴のような状態でした。
体調を崩さなかったのは良かったけど、今でも栄養ドリンクに頼らない日はない!ただ、こんなに多くのお客さんが来てくれることは想像していなかったので、ありがたいなと思います。
―個人的には、行こうかなと思ってもためらうくらいの盛況ぶりを感じていました。
忙しいときは、カレーを作っても作っても足りなくなるくらい。体力的にはしんどくても、好きなことで店をやるのは楽しいです。その嬉しさを感じていたから、走り続けられたのかもしれません。
―現在の営業体制や、メニューなどを教えてください。
営業は火曜から土曜の11:00~16:00が基本です。レギュラーメニューとしてカレーを3種類、カフェメニューとしてドリンクやスイーツを提供しつつ、週に1~2回は限定メニューのカレーを出しています。
あと、月に1~2回は「マホロバナイト」といって夜営業をしています。レギュラーメニューのカレーの他に、夜だけ食べられるカレーやスパイスラーメンなどその時々でメニューを考えて営業しています。お酒を楽しみながらスパイスカレーも味わってもらえるので、ランチとはまた違う雰囲気です。


―限定のカレーは毎回個性的で、Instagramにスケジュールが掲載されるたびに「どんなカレーだろう?」とワクワクします。
限定のカレーや夜営業をやるのは、お客さんからの声に応えたいのもあるのですが……。個人的には、いつもとは違うことをしたいからなんですよね。
めちゃくちゃ忙しいとき、ごはんをお皿にひたすら盛っていた時間があったのですが、同じことを繰り返しすぎて「自分何しているんだろう」って思ってきちゃって。もちろん、好きなことで店をやっているから楽しくさせてもらっているんだけど、同じことばかりをやっていると飽きちゃうというか。
飽き性の自分が飽きないように、楽しくできるように、時々は違うことをやるようにしています。
―限定カレーや夜営業は、楽しく続けるための工夫でもあったんですね。
そもそも、メニュー開発自体が楽しいんですよ。研究しているみたいだなって思っています。
新メニューでもイメージしていた味に近づくのは早いんですが、もちろん失敗もあって。その失敗したときが、面白いんです。例えば牡蠣のカレーを考えたとき、試作したものをスタッフに食べてもらったら「え?牡蠣の味しない」と言われました(笑)。「カレーの味が強かったか!」と、牡蠣の味を活かせるように研究が再スタートする。。その過程が楽しいんでしょうね。
あとはクラフトコーラの紫蘇味を作ったとき、初めは自分が想像していた味と全然違って笑えました。試しに常連さんに飲んでもらっても「これは違うな」という言葉が返ってきて。「ですよねえ」と笑いながら、また作る。指摘を受けて嫌な気持ちになるタイプでもないので、「違うかー!」って笑えるんです。で、おいしくなっていく。その繰り返しです。
話すのが好き。だからこそ、SNSも自分のままで

―自分で没頭するだけではなくて、スタッフやお客さんと会話しながら作っているんですね。
話すのは好き!自分の店を持ってよかったのは、話したいことを自由に話せることです。以前は営業をやっていて、話す職種ではあったのですが、営業トークの範囲でしか話せないことも多々あったんです。
今はどこから来てくれたのか、味はどうだったかなど感想から、「令和の付き合ってはいけない3C男って知ってる?」という笑い話まで(笑)、結構話しかけます。とくにカウンターに座った方には、話しかけちゃいますね。
話すのが好きすぎて、もうカレーの味については二の次でもいいかな?と思うくらい(笑)。もちろん、味のおいしさにはこだわっていますよ!自分は負けず嫌いだし、他のカレー屋よりもおいしいカレーを作るぞ!と思って毎日店に立っているけど、それ以上に店にいる時間を楽しんでもらえたら嬉しいなって。最近は、その想いがより強くなってきているように思います。

―たしかに、池上さんとお客さんがよく話している印象があります。
個人的な意識としては、お客さんはみんな友達!友達と思える人が増えるのは楽しいじゃないですか。
―Maholovaファンにとっては話題のInstagramも、お客さんへの返信が友達のようというか、距離感が近いですよね。
Instagramも自由にやっているので、楽しいですね(笑)。どうしてもふざけたくなっちゃうんですよ。店でお客さんと話していても「Instagram見てます!面白いです!」と言ってもらうことが増えてきたから、「なんか面白いこと言ってみようかな」と意識してしまって(笑)。


オープンしてからの2~3ヶ月は、テンションを抑えていたんですけど。
―そうだったのですか?今の発信が定着していて、私の記憶から抜けています……。
「店の雰囲気に合わせて、落ち着いた内容にした方がいいよ」と周りから言われたので、その通りにやっていたんです。「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしています」と、よくある文章を使って。
ただ、Instagramってお客さんとの会話になるじゃないですか。自分のままでコミュニケーションできないのが、だんだんストレスになってきちゃって。耐えられなくなって、少しずつテンションが高いかんじで返信したり、ストーリーズを投稿したりしていたら、お客さんから「あれ?こんな人だったの?!」と言われるようになりまして。面白がってくれる人が増えたので、今のようなスタイルになりました(笑)。

―池上さんらしさが出ているInstagramは、Maholovaの個性にもなったのですね。
ふざけた投稿をするたび、少しずつフォロワーが減るんですよ(笑)。でも、それでもいいかなって。メニュー開発だけではなくてInstagramも、自分が楽しくできないと続かないので。
それに、素の自分も許してくれて、笑ってくれるお客さんが店に来てくれる方が嬉しいんですよね。自分もコミュニケーションを取りやすいので、楽しんでくれるのはありがたいなと思っています。
伝え方のメリハリは、バンド時代の学びから

―限定メニューの卓上ポップの文章も面白いです(笑)
そう(笑)。カレーのこだわりなど、いいことを書いているように見せかけて実は意味がないことばかり。
スタッフにも何も言っていなかったので「店長!よく見たらこれ、ほとんど店長の気持ちじゃないですか!」と言われました(笑)。
―でも、レギュラーメニューには一つひとつ説明がありますね。
自分のこのテンションを知らないお客さんがいたら、びっくりしちゃうから(笑)。レギュラーメニューではしっかりと、商品の説明をしています。


―しっかり伝えるときと友達と話すようなテンションのとき。使い分けているんですね。
人とコミュニケーションを取るのと同じくらい、人間観察も好きなんですよね。「あの人、店の高い天井を見てぼーっとしてるな」「あの人、何度か来ているな」など、どんなお客さんがどんなカレーが好きで、どんな話が盛り上がるかなどを結構よく見ていると思います。
昔、バンド活動をしていたときがあったのですが、路上ライブをよくやっていたんです。路上ライブって、色々な人と出会うんですよ。若者、ギャル、酔っ払い、おじいちゃんおばあちゃん。この人にはこの曲が響くかなと思って歌ったら、やっぱり立ち止まった!とか、意外と響かなかったな……とか。そういう発見が楽しかったんです。
だから今も、ちゃんと伝えたいときは伝えられるようにSNSに書きますし、ノリで遊ぶときもある。お客さんのことをできる限り見たうえで、会話させてもらってるんじゃないかなと思います。
大藪みかんのおいしさや農家の現状を知ってほしい

―ドリンクメニューで好評の、玉野の特産品である大藪みかんを使ったクラフトコーラ「凪」のシロップは、とくに強いメッセージがあるように思います。
ありがたいことに、2024年に実施したクラウドファンディングでたくさんの人に支援してもらったおかげで、ようやく商品化できました。

クラウドファンディングのリターンとして、初めてお客さんに届けましたが、2025年2月22日にはECサイトがオープン予定です。他の飲食店での提供も始めていきたいと思っています。
クラウドファンディングでも話しましたが、自分のじいちゃんが大藪みかん農家だったこともあり、思い入れが強いんです。何より味が濃くておいしいから、この先も食べ続けていたい。でも、大藪みかんの農家はどんどん減少し、高齢化も進んでいます。

スパイスカレー屋の道を選んだ自分ができることは、大藪みかんを使った商品を自分の店に置いたり、販売したりしながら、全国に向けて発信すること。大藪みかんのおいしさや現状を多くの人に知ってもらいたくて作ったのが、クラフトコーラ「凪」でした。
今は販売のスタートラインにようやく立ったところ。この活動が大藪みかんの認知拡大や、農家という仕事に興味を持つ人を増やすことに、どれだけ貢献できるか……正直まだ分かりません。
でも、大藪みかんのことを伝えたいし、農家という職業を身近に感じられるきっかけにしたいという想いは、ずっと変わっていません。自宅でも楽しめるようになるので、ぜひ待っていてもらえたら嬉しいです。
―最後に、今後やりたいことを教えてください。
大藪みかんについては、クラフトコーラ「凪」を通して玉野から全国へ、大藪みかんや農家として働くことを知ってもらえるように、活動を広げていきたいと思います。それに尽きます!
店としては、これからも楽しく続けていけたら嬉しいですし、店を通してもっと友達を増やしたい!友達100人……と言ったら大きく聞こえるかもしれないけど(笑)、そのくらいお客さんと仲良くなりたいなと思っています。想像するだけで楽しみ。
あと個人的には、バンド活動を再開したいです。店だけでも充実しているのに、個人的にもやりたいことが多くて困っていて……。時間が足りない!ただそれも、ありがたいことです。自分自身が楽しみながら、自分の家族や友達、お客さんとも楽しく過ごせたら、それが一番だと思います。

<店舗情報>
Maholova
住所:玉野市田井4丁目31-19
営業日:火曜~土曜
営業時間:11:00~16:00(不定期で夜営業も)
詳細:Instagram
(取材執筆/小溝朱里)