
夜カフェを通してまちと関わる、3人の視点 ~個性を活かして「やりたい」を形に
宇野港メディアで紹介してきた、喫茶キンバリーやマフィン専門店mogmogなどが出店している「シェアショップUZ」。朝や日中だけでなく、夜も営業しているのをご存知でしょうか。
その名も「夜カフェ」。現在は、水曜オーナーのAyatoさん、木曜オーナーの一輝(かずき)さん、金曜オーナーの樹里(じゅり)さんの3名で運営しています(金曜のみ休止中)。
各曜日に看板メニューがあるなど、オーナーによって色が変わる「夜カフェ」。今回3名の対談を実施し、夜カフェのオーナーになった経緯や印象的だった出来事などを伺いました。

<中央:Ayatoさん>
倉敷市在住。アーティスト兼夜カフェ水曜オーナー。シェアショップUZにて作品を展示・販売している。
<右:一輝さん>
倉敷市在住。LINE構築など様々な仕事をしながら、夜カフェ木曜オーナーを担当。釣りが趣味。
<左:樹里さん>
岡山市在住。パティシエを経験したのち現在はパン屋で活躍中。金曜夜カフェオーナー(現在は休止中)。
※宇野港メディアでは、岡山県の港町・宇野港エリアから、玉野市にゆかりのある「人物」にスポットライトを当て、まちの魅力をお伝えしています。
やりたいことを形にする方法を模索していた

―夜カフェのオーナーをやろうと思ったきっかけを教えてください。
Ayato(敬称略):
ぼくは2022年6月からやらせてもらっているのですが、その少し前にJR宇野駅近くにある駅東創庫で個展をしていたんです。そのとき、宇野港のハルさんと知り合って誘っていただいたのがきっかけでした。
親がパン屋をやっていたこともあって、自分の店を持つこと、とくにカフェをやってみたいなと思っていて。ただ、当時は20歳くらいだったので、このタイミングで自分の店を持ってしまうと、自由に動けなくなる。他のやりたいことができなくなるなと思ったんです。
その後は1年海外で過ごして、日本に戻ってきました。帰国をしてからも「カフェをやってみたい」という想いは消えなかったので、どうやったら実現できるのかなとぼんやり思っていました。
ハルさんと初めて会ったときにそんな話をしたら、「うちならできるかもしれない」と言っていただいて。週に1回間借りをするかたちで夜カフェが生まれました。
一輝(敬称略):
ぼくはInstagramで夜カフェオーナー募集の投稿を偶然見つけて、興味を持ちました。Ayatoさんのもとで1ヶ月研修をして、2024年6月からやらせてもらっています。

もともとはバーをやってみたかったんです。でも、自分はお酒が飲めないから、むずかしいのかなと思っていて。「夜カフェ」の文字を見たときに「夜カフェなら、お酒が飲めなくても大丈夫だし、お客さんと話もできそう。これだ!」と思って応募しました。
樹里(敬称略):
私もInstagramの投稿をたまたま見つけて、2024年7月からやらせてもらっています。私は普段、パティシエやパン屋として働いているのですが、ゆくゆくは自分の店を持って起業したいと思っているんです。
その実践の場として、夜カフェで自分のやりたいことをやっていったら夢に近づけるかなと思い、応募しました。

―一輝さんと樹里さんは、オーナーになるにあたって不安はありませんでしたか?
一輝:
応募したときは「自分ができるかな?」と思っていたのですが、ハルさんと面接で話をしていたら不安はなくなりました。
一番不安だったは、料理に自信がないこと。でも、レイさん(ハルさんのパートナー/喫茶キンバリーオーナー)が仕込みなどのサポートをしてくださると知り、やってみたいと思ったんです。
あとは、おいしい料理を提供したい気持ちと同じくらい、色々な人と話してみたいなと思っていて。調理の工程が複雑だと、作ることに必死になってしまいそうですが、レイさんのおかげで調理方法がわかりやすく、慣れたらお客さんとの会話も楽しめそうだなと思いました。
樹里:
私も不安はなかったですね。もちろん応募する段階では「どんなふうにできるんだろう?」と思いましたが、ハルさんやレイさんが私のやりたいことを叶えるにはどうしたらいいか、一緒に考えてくださるのが心強くて。不安はなくなりました。
自分色を出したオリジナルメニュー

―それぞれ看板メニューが生まれた経緯や、そのこだわりを教えてください。
Ayato:
ぼくは「水曜日のナポリタン」を提供しています。カフェをやりたいと思っていたとき、「ナポリタンは出したいな」と漠然と思っていたのを思い出し、ハルさんとレイさんに話したら「やってみたら?」となりました。

ぼく自身、昔ながらのナポリタンが一番美味しいと思っているので、味つけや材料はできるだけシンプルに。シンプルだからこそ味を決めるのがむずかしく、出店前は試行錯誤した記憶があります。
鉄板に乗せる案はハルさんに提案いただいて、今のかたちになりました。
一輝:
ぼくは「木曜日のオムライス」を出しています。ハルさんとレイさんに「自分色を出した方がいい」とアドバイスいただいたのですが、得意な料理がないので悩んでしまって。
バーをやりたかったからお酒を出そうか?とか、釣り好きだからシーフード系か?とかすごく考えたのですが、結局どれもしっくりこなくて。
レイさんに「好きな食べ物は?」と聞かれて「オムライスですかね」と言ったところからメニューが決定しました。メニュー開発はレイさんが力を貸してくださって、本当にありがたかったです。

樹里:
私はスイーツを作りたかったので、毎月メニューを変えて「夜パフェ」を作ってきました。
メニュー開発や試作などすべてをやっていたのでどれも思い入れがあるのですが、とくに印象に残っているのはモンブランパフェです。お客様からとくに好評だったので嬉しくて。

試作のときに、ハルさんやレイさん、mogmogの里奈さんから意見をいただけるのもありがたかったです。「もう少し酸味を入れたら?」など、自分にはない扉を開いてくださるので、いい作品ができたなと思いました。
今は仕事が忙しく、夜カフェはお休み中ですが、今までとは違ったかたちを視野に入れて再開できたらと思います。
フラットに人と関われる楽しさ

―夜カフェをやっていて楽しいなと思うこと、反対に大変だなと思うことは何ですか?
Ayato:
楽しいのは、顔なじみの人が来てくれることですね。お客さんなんだけど、距離感が近くて親戚のようなんです。「いらっしゃいませ」ではなく「こんばんは」から始められることも、いい意味で気を張らずに仕事ができる。お客さんの話を聞いたり、自分の話をしたりもできる。他の飲食の仕事だったら、ここまでフランクに働けないと思うので、夜カフェならではの楽しさかなと思います。
ただ、初めたての頃はお客さんが1人、0人のときもあって結構不安でした。何か形を変えた方がいいのかな?と思うこともあったけど、レイさんと「変えずに続けてみよう」と話したのを覚えています。
お客さんが増えてきたのは、2024年頃から。これは続けてきた結果でもあるし、一輝と樹里ちゃんが来てくれたからでもあると思っています。1人よりも3人になったことで、人の流れができたんじゃないかな。
一輝:
ぼくも気負わなくていいというか、アットホームな雰囲気で働けるのは楽しいなと思います。
もちろんお客さんに対しては丁寧な接客を心がけているのですが、「店員 対 お客さん」よりフラットな関係でいられる。以前、某チェーン店で飲食のアルバイトをしたことがあるのですが、お客さんと会話を楽しめる環境ではなかったので……。色々な人と話したいぼくにとっては楽しいです。

大変なのもAyatoさんと同じで、今でも最初の1人が店に来るまで心配で心配で。「今日はお客さん来るかな」と毎回ドキドキしています。待っていることに対して、精神的なしんどさがありますね。
ただ、色々なところで「夜カフェやってます」と、自分で宣伝するようになりました。玉野市外に住んでいる知人でも来てくれることがあって嬉しいです。
あとは、Instagramで釣りに行ったときの写真を載せているので、釣り好きの人がたまに来てくれるのも嬉しいですね。釣りの話でかなり盛り上がったのは本当に楽しかったです。
少しずつかなとは思いますが、自分がやっていることを知ってもらえるようにがんばりたいと思います。
樹里:
私は、あまり会話してこなかったお客さんが心を開いてくれて、話せるようになるのが楽しかったです。
私、「ありがとうございます」しか話さない人に限って、すっごく話したくなるんですよ(笑)。しかも会話が少ない人こそ、毎週来てくださるという(笑)。だからより、その方のことが気になってしまって、話したくなって。
最終的には心を開いてくださり、お土産をいただくまでに至りました。この瞬間が鳥肌もので!すごく嬉しかったですね。

大変なのは、メニュー開発と仕込みです。毎月メニューを考えるのも、仕込みに時間がかかるのも大変でした。でも、高いクオリティで提供したい気持ちが強くて、手を抜くという選択肢はなかったです。どのパフェも喜んでもらいたいと思いながら作っていましたが、その分苦労もありました。
それでも、夜カフェでは一人ひとりのお客さんと向き合えて、コミュニケーションが取れるので励みになります。直接「おいしかったです」と言ってもらえると「来月もがんばろう」と思えました。
まち全体がアットホームな雰囲気

―3人とも玉野市外からシェアショップUZまで通い、夜カフェを運営していると思いますが、3人から見て玉野はどんなまちですか?
Ayato:
色々なものを持っている人が多いなという印象です。
北海道出身だったり、海外に住んでいたことがあったりと、色々なバックボーンを持っている人が多い。そもそも、「どこ出身なんですか?」と深い話をするまでに至らないなと思います。
夜カフェで出会う人は「初めまして」から会話が始まるけど、初めてでもその人の背景を知れるような深い話ができる。しかも自然にできるのが、いいなと思いますね。
一輝:
シェアショップUZだけではなくて、玉野全体がアットホームなまちだなと思います。
夜カフェを始めてから玉野に通うようになったのですが、お店や経営者同士の横のつながりが多く、知り合いが知り合いを呼んで、気がついたらその輪に入れてもらっていたりする。

ぼくが「シェアショップUZで夜カフェやってるんですよ」と話すと「あの、喫茶キンバリーのところか!」とみんなが分かってくれて、話が広がりました。小さなまちだからこそ、みんなでつながり合って、応援し合っているのが玉野のいいところだと思います。
樹里:
接客をしていて、優しい人、人当たりがいい人が多いなと思っていました。
パフェの説明をしているときに、頷きながら聞いてくれたり、質問を返してくれたり。「へ~」といって、とくに会話もなく終わることの方が少ないように思います。
「興味を持って聞いてくださる方が多くて、人当たりがいい人が多い場所だな」とはずっと感じていました。
コミュニケーションが生まれる場づくりを

―最後に、今後やりたいことを教えてください。
Ayato:
シェアショップUZでは今、ぼくの作品を飾らせてもらっているのですが、もう少し作品数を増やして「展示兼カフェ営業」をしてみたいです。
以前やらせてもらったときは、設営に時間がかかってしまい、なかなか次の機会ができずにいて……。でも、またやってみたいです。
展示に限らず、UZならではのイベントができたらいいなと思いますね。例えば、ひとつテーマを決めて、それに興味を持ってくれた人が来てくれて、ごはんを食べながら話す会とか。お客さんとフラットに話せる場だからこそ、深い話をする機会があったら面白そうだなと思います。
一輝:
ぼくもイベントやってみたいですね。常連さんと何かをするのも楽しそうですし。具体的な内容まではイメージできていませんが、玉野が盛り上がるイベントができたらと思います。
あとは、Ayatoさんの絵の邪魔にならない程度に、釣った魚の写真を小さく飾っておくとか(笑)。よーく見たら、扉の近くに魚の写真が飾ってあったら面白そうじゃないですか(笑)。
ぼくはまだ料理で個性を出すのがむずかしいので、違う方法でお客さんと楽しめる企画を考えてみたいです。
樹里:
私は色々な人とポップアップができたら楽しそうだなと思います。ドリンクの人、雑貨を作る人、私みたいにスイーツを作る人、など色々な人が集まって、1日ポップアップイベントをしてみたいです。
いろんな人が集まる場所だからこそ、より人とのつながりやコミュニケーションが生まれる場になったら楽しいだろうなと思いました。

<詳細>
夜カフェ
住所:玉野市築港1丁目4-16(シェアショップUZ)
営業日:毎週水曜、木曜(金曜は休業中)
営業時間:18時~22時(ラストオーダー21時)
公式Instagram
(取材・執筆/小溝朱里)