宇野港メディア

#08 うのベース「東本 隼之さん」

コワーキングスペース“だからこそ”が生まれた1年 ~人との出会い/交流/新たな事業

2024年3月、玉野市で初めてコワーキングスペースに特化した場所ができたのをご存知でしょうか。

JR宇野駅から西側へ、徒歩で約10分進むと見えてくるのが、“玉野市の「やりたい」が集まる”をコンセプトにした「うのベース」です。働く場所としての利用はもちろん、自習室として、セミナーや勉強会で学び合う場としてなど、さまざまな使い方ができます。

今回はうのベースのオーナーである東本隼之さんにインタビュー。うのベースオープンからの約1年、自らが場所を持つことで、出会う人の数やこれまで振り返りながら、自らが場所を持つことで感じたことを伺いました。

宇野港メディアでは、岡山県の港町・宇野港エリアから、玉野市にゆかりのある「人物」にスポットライトを当て、まちの魅力をお伝えしています。

チャレンジし合える場所をつくりたかった

提供:うのベース

―うのベースを始めた理由を教えていただけますか?

私の第2のふるさとである玉野に、「孤独を感じることなくチャレンジできる場所をつくりたい」と思ったのがきっかけでした。

私は奈良県出身で、就職を機に玉野に移りました。現場監督として、玉野の造船会社や水島の化学プラントで働いていましたが、現在はフリーランスのライターにキャリアチェンジしています。新しい仕事に未経験でチャレンジしたため、リアルで会える距離に仲間がいなかったうえ、周囲からは心配の声が多く届いて孤独さを感じていました。

一方で、私がライターとして一歩を踏み出すきっかけにもなったオンラインコミュニティのオフ会に行くと、がんばっている仲間がたくさんいたり、心配の声ではなく応援の声がたくさん聞こえてきて、心強さや安心感、前向きな気持ちを得られたんです。

この環境が、私が住んでいる玉野にもあったらいいなと思うようになりました。「場所をつくる」ということは今までにやったことがなく、私にとってもチャレンジだったので、みんなでチャレンジし合える場所にできたらという想いで「うのベース」をオープンしました。

―私はうのベースさんのクラウドファンディングに携わらせていただいたご縁で、オープン前後の様子を少し知っているのですが、1年前は急ピッチで内装や備品の準備をしていましたよね。

あのとき、やばかったですよね(笑)。オープン10日前にもかかわらず、床張りすら終わっていませんでしたね……。

実はこのとき、ライターの仕事もこれまでと比較して3本の指に入るくらい忙しかったんですよ。なんでオープン日に間に合ったのか、よくわからないくらい(笑)。気力で乗り切っていたのでしょうね。

―オープン準備において印象に残っていることはありますか?

材料の到着が遅れて、想定していたスケジュールで工事が進まなかったことでしょうか。でも、進められるところは進めないとオープン日に間に合わないので、段取りを変更したり、大工さんと一緒に準備を進めたりなど臨機応変に対応していました。

―現場監督に戻ったかのようですね。

本当ですね。まさか現場監督のスキルが活きるときがくるとは。だからオープン日に間に合ったのかな(笑)。

自然と他者の影響を受け合う空間に

―オープン後、実際に利用しているみなさんの様子はいかがですか?

月額会員、ドロップインなど利用方法はさまざまですが、月額会員の方はとくに、ご自身のお気に入りの席が決まってきたのがいいなと思います。もちろん、その席に別の誰かが座っていることもあるものの、いつもと違う席に座ったら、普段とは違う交流が生まれたりもしていて。そういった、うのベースで起きる自然発生的な行動や交流が垣間見れると、つい嬉しくなりますね。

また、誰かが昼ごはんを食べ始めると、なんとなく他の人も食べ始めるんです。うのベースで過ごしている人たちが、ゆるやかに影響を与え合っている空気が好きだなと思います。

―自分の作業を進めつつも、自然と誰かの影響も受けている。

コワーキングスペースには職種が違う人が集まるからこそ、仕事の話も、仕事とは関係のない話も、両方ができるんだなと気づきました。

―集中して作業したいときは、奥の集中スペースが使えるのですよね。

そうですね。誰にも話しかけられない環境で集中したいときは、奥の「集中スペース」を、会話も楽しみたいときは「交流スペース」を使っていただけます。

このつくり、はうのベースの構想段階からこだわっていたポイントなので、実際に使っていただいている様子を見られるのも嬉しいです。

コワーキングスペースだからこその出会いを創出

―オープンから約1年が経ちましたが、「これはやってよかったな」と思うことはありますか?

2024年末に忘年会ができたことです。

おかやまデザイナーコネクトさんとのコラボイベントで、パパママに優しい忘年会として昼間に開催しました。この忘年会で初めてうのベースに来てくださった方もいれば、普段から利用いただいている会員さんもいて。やはりここでも職種がバラバラだったので、いい交流の機会になったのではと思います。

ありがたいことに満席で、個人的には「この1年がんばってきてよかったな」と思えた瞬間でもありました。

―場所+企画で、新たな出会いが生まれていたのですね。

フリーランスって、どこに生息しているかわからないじゃないですか(笑)。普段は見えない場所で、それぞれの場所で活動している人たちが、少しのきっかけでうのベースに来ることになり、楽しそうに話をしている。その様子を見られたのがよかったなと思います。

―忘年会のような交流イベントは、定期的に行っているのでしょうか。

そうですね。イベントは交流会だけではなく、セミナーや勉強会などかたちは様々ですが、1ヶ月に4~5回を目途に開催しようと考えています。

交流の様子(提供:うのベース)

新しい出会いはイベントで生まれることが多いので、定期的に開催したいのですが、コワーキングスペースという「作業する場所」としての機能は崩さずにいたいと思っています。その塩梅を考えると、月に数回かなと。

この1年で、通常営業とイベントとのバランスを少しずつ掴んでいるように思います。

―イベントのテーマはどのように決めているのですか?

うのベースの利用者さんが、やりたいことをできるように心がけています。講師側になっていただくこともあれば、参加者として「こういう機会があったら嬉しい!」という声を叶えることも。

また、私が勉強したいことを企画する場合もあります。canvaやAIテーマにしたときは、私が知識を深めたくて講師の方をお呼びしました。

自らがつくった場所である特権を活かしつつ、利用してくださる方が満足してうのベースで過ごしていただけるようにするにはどうしたらいいかを考えるようにしています。

―東本さんの話を伺っていると、カフェやレストランではなく、コワーキングスペースを作ったからこそ出会えた人たちがたくさんいらっしゃるのだなと思いました。

そうですね。この1年で、うのベースを通して100名近くの方と出会っていると思います。職種はバラバラだけど、それぞれの分野でチャレンジしている方々にたくさん出会えました。

「孤独さを感じずに、チャレンジできる場をつくりたい」と思ってスタートしたうのベースですが、私が一番孤独さを感じずに、チャレンジできているように思います。関わってくださるみなさんのおかげです。

玉野に「コワーキングスペース」を馴染ませる

提供:うのベース

―そのほか、コワーキングスペースを運営するからこそ気がついたことはありますか?

コワーキングスペースに関わっている方々は、みなさん前向きなんです。これに感動しました。

うのベースをオープンしてから岡山コワーキングスペース協会に入り、コワーキングスペースの運営者と知り合えたのはよかった点です。コワーキングスペースを運営している人ならではの悩みやノウハウを共有して、相談し合ったり学び合ったりしていまして。同業者でライバルのはずなのに、「みんなでより良くしていこう」という想いを持っていらっしゃる経営者のみなさんが素敵だなと感じています。

コワーキングスペースを利用している方々も、前向きでフットワークが軽い方ばかりです。うのベースをオープンして知ったのですが、コワーキングスペースを使う人は、複数のスペースをはしごする方も多いんですよ。だから岡山市や広島に住んでいる方が、ときどきうのベースまで来られることがあって。

「わざわざ玉野に?」とはじめは不思議だったのですが、いつも使っているコワーキングスペースとは違う非日常の場に行くのを楽しんでいらっしゃるんです。そのマインドも素敵だなと思いました。

そういった方々に出会うと、私は前向きな方々が集まる環境をつくっているひとりなんだと実感します。さらにがんばっていこうという想いが強くなりますね。

―今までの玉野は、「人の流れ」といえば観光のイメージでしたが、うのベースがあることで働き手の人の流れも生まれているのだなと感じました。

うのベースを目的に玉野に来てくださる方がいるのは、ありがたいですよね。ここが玉野に来る理由のひとつになれたらと思います。

壁にはうのベースほか、近隣でのイベントチラシがずらり

―玉野での過ごし方・関わり方に、変化はあったでしょうか。

これまで玉野にはコワーキングスペースがなかったので、説明しても「それ何?」と言われることが多かったです。

でも、いざ運営を始めると噂を聞いて覗きに来てくださったり、飲食店でチラシを見た方がふらっと立ち寄ったりと、興味を持ってくださっているのを感じます。なかなか都会では見ない光景ですよね。「がんばってね」と声をかけてくださる方も多くて、玉野のみなさんに受け入れていただいているありがたさを感じます。

あと想像していなかったのは、子どもを保育園で出会うパパママとの関係です。

子どもを迎えに行くときに「あれ?!うのベースの……?」と言っていただいたことがありました。びっくりしたのですが、他のパパママにも認識いただいているのは嬉しいなと思います。

また私自身も、「〇〇ちゃんのパパだ」としか認識していなかった方が、玉野市内でお店をされていることに気づいたり。しかもその人数が、想像よりも多くて!

子育てをしながら、自分がやりたいことにもチャレンジしているパパママが玉野にたくさんいらっしゃると知れたのは、私の大きな励みになっています。

いい仕事が生まれる循環をつくりたい

―うのベースを通して、東本さん自身がチャレンジしたことは何ですか?

うのベースで出会った方々とクリエイターチームを組ませていただき、地域の企業様にご提案したり、一緒に仕事をさせていただいたりするプロジェクトが始まりました。

私含めてメンバーは6名で、得意なことがバラバラなのがいいなと思っています。それぞれの強みを活かしながら、地域に貢献できるチームへと成長したいです。

―今後の目標を教えてください。

ひとつは、うのベースという場所を続けていくこと。場所を持つということは、経営面では大変なことも多いです。でも、新しい人との出会いがあったり、みんなでチャレンジし合ったりできるこの場所を、私自身が一番求めているんですよね。だから少しでも長く続けられるように、2年目以降も試行錯誤したいと思います。

もうひとつは、うのベースで出会った方々といい仕事がしたいと思っています。最近はクリエイターチームを組むチャレンジを始めましたが、それ以外にも、うのベースの利用者さんに仕事をお願いするなどもしています。この流れで、いい仕事が生まれる循環をつくっていけたら、もっと楽しいことができるのではとワクワクしています。

<詳細>
うのベース
場所:玉野市宇野8‐1‐1 1F
営業日時:午前6時~午後10時
(※一時利用は午前9時~午後5時)
定休日:不定休(最新情報はInstagramへ)
料金:
<一時利用(ドロップイン)>1,000円~
<月額利用>7,700円~
その他、オプションサービスや物販などあり
詳細:公式LINEInstagramホームページ

(取材執筆/小溝朱里)

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