
「運がいいと思っておく」地元・玉野で珈琲焙煎所が愛される理由
JR宇野駅近くの築港商店街を歩いていると、珈琲のいい香りが漂ってきます。その先にあるのは、2019年にオープンしたCOFFEE ROAST 3710 みなと珈琲焙煎所(以下、みなと珈琲)。1階には焙煎所、2階にはカフェがあり、地元のみなさんの憩いの場となっています。
店主の原田曜徳(はらだ あきのり)さんは、玉野生まれ・玉野育ちなのだそう。一度は香川や東京で生活していたものの、Uターンして玉野で焙煎所を開きました。
今や、家で飲む珈琲から、市内にある飲食店のオリジナルブレンドに至るまで、玉野市民の生活を珈琲で支えている原田さん。現在に至るまでの経緯や、どのような想いで店を運営しているかなどを伺いました。
宇野港メディアでは、岡山県の港町・宇野港エリアから、玉野市にゆかりのある「人物」にスポットを当て、まちの魅力をお伝えしています。
いつか喫茶店をやるんだろうな

―みなと珈琲は私もよく利用させていただいていますが、地元の方がふらっと来て、珈琲豆を買ったり、2階でゆっくりしたりと思い思いに過ごされているのが印象的です。
本当に、ありがたいですよね。ほとんどが常連の方なので、お客さんというより親戚のような感覚で。この距離感が嬉しいなと思います。
―原田さんはもともと珈琲がお好きだったのですか?
家ではあまり飲まなかったのですが、喫茶店に行って珈琲を飲むのが好きだったんです。若い頃から漠然と「いつか喫茶店をやるんだろうな」と思っていました。
―始めは焙煎所ではなく、喫茶店のイメージだったのですね。
そうですね。玉野で高校を卒業してから香川県の大学に行き、その後東京に行ったのですが、そのときに喫茶店で働いていました。働きながら「やっぱり喫茶店好きだな。珈琲も好きだな」と思っていたのを覚えています。
この頃はまだ焙煎に興味を持っていなくて、学んだことと言えば接客ですね。お客さんとの距離感や、珈琲の提供方法など、喫茶店のスタッフとしての姿はそこで学ばせてもらったと思います。
「珈琲が好き」きっかけは異業種で

―喫茶店で働いていたときから、焙煎所をオープンするにあたっては何かきっかけがあったのですか?
焙煎所をやろうと思うよりも、玉野に帰ってくる方が先でした。東京で、いつものように電車に乗りながら出勤していたとき、電車の窓からぼーっと多摩川を見ていたらふと「帰ろう」と思って。
1ヶ月後にはもう玉野に帰ってきていました。
―え?!そんなにすぐに決断を?
はい(笑)。満員電車が嫌だったとか、そういう理由もないんですけど。ただ、本当にふと「もう帰ろう」と思った瞬間だったんです。後先のことは何も考えずに帰ってきて、少しの間、玉野でふらふらしていました。
―久しぶりに帰ってきた玉野はどうでしたか?
本っ当にいいところだなと思いました。抜群に景色がいい!空気が美味しい。のどかな時間の流れがある。こういう場所、なかなかないですよ。

子どもの頃は「田舎だな」「東京行ってみたいな」などと思っていましたが、帰ってきたら過ごしやすくていいところだなと思いました。
玉野に帰ってきてふらふらしていたら、Maholovaの店主の池上くんが「一緒に働かない?」と声をかけてくれて、会社員をしていたときもあります。
―そんなことが!池上さんとは、高校時代の同級生なのですよね。
そうそう。実は大学も同じ学校なんです(笑)。池上くんも玉野を出て、帰ってきて、店を始めた人間なので、もはや腐れ縁ですよね。
当時はまだ池上くんも自分の店をやっていたわけではなく、地元の企業で働いていました。その仕事に誘ってもらって、一緒に働いたこともあるんです。
―では、原田さんは玉野に帰ってきて、喫茶店を離れた時期があるのですね。
はい。ただ、違う仕事をしたことが「やっぱり喫茶店と珈琲が好きだな」と再認識するきっかけになりました。
そこで、珈琲を淹れる器具と珈琲豆を買ってきて、家で飲むようになったんです。次第に「どんな珈琲豆があるんだろう」と気になってきて、焙煎所巡りをするようになりました。
焙煎の一部始終を、お客さんと楽しむ

―そこで興味が、喫茶店から焙煎所に移っていく、と。
色々な焙煎所に行って、珈琲豆の種類の違いや焙煎の違いを味わうのが本当に楽しかったです。そのうち、知り合いから「倉敷市にあるコーヒーローストおかべさんが加盟店を募集してるよ」と教えてもらい、応募したのがきっかけで、みなと珈琲のオープンに至りました。
コーヒーローストおかべさんは、全国に120店舗以上あるコーヒーローストグループの加盟店です。そこで珈琲豆や焙煎のことをたくさん教えていただきました。学ぶことすべてが新鮮で、面白かったので、自然に「焙煎所をやろう」と思えました。
―オープンにあたって、不安はなかったのですか?
あまりなかったです。焙煎所って、ウケるだろうなと思ったので。
うちもそうですが、珈琲豆がずらりと並んでいる店内や、焙煎の様子、焙煎しているときの香りなど、見ているだけでも面白いじゃないですか。きっと色々な方に楽しんでいただけるだろうなと思っていたので、不安はあまりありませんでした。

―実際、オープンしてからのお客様の反応で印象に残っていることはありますか?
深入りの焙煎をしていて、煙がぶわーとなっている瞬間にお客さんが入店して「何ここ?!」という表情をされたときは面白かったですね(笑)。「本当にその場で焙煎してるんだ!」という一言もよく言われます。
私自身、珈琲豆の種類によって変わる焙煎方法の違いや、焙煎そのものが好きでこの仕事をしているので、焙煎している様子を面白がってくださるのは嬉しいなと思います。

あとはお客さんがリピートしてくださるのも嬉しいです。「あれ美味しかったよ」という言葉も嬉しいですし、違う豆を試してくださるのも嬉しい。珈琲って、日常生活に溶け込んでいるものだと思うので、みなと珈琲で焙煎したものがみなさんの生活の一部になっているのが嬉しいなと思います。
喫茶店でも、他の飲食店でもみなと珈琲を

―2階の「喫茶みなと 2階」も、地元のみなさんの憩いの場になっていますよね。
喫茶店は2階にあるのですが、階段が奥にあるので“隠れ家”っぽい雰囲気も面白いなと思ったんです。2階で喫茶店をやったら流行るだろうなと、なんとなく想像していました。みなさん2階でゆっくりしていただいて、ありがたいなと思います。
―お母さんが作るケーキが本当に美味しくて!
なかなか味わえないですよね。あんなに大きくて、でも素朴で、美味しいケーキ。
母は子どもの頃からケーキを作っていて、近所に配っている姿を見ていたので、なんかもったいないな、売れるんじゃないかな、と思っていて。で、喫茶店をやらないかと声をかけたら、「あなたがやるんだったらいいよ」と言ってくれました。母のケーキを世に出せたのは個人的には嬉しいことでした。

―あとは個人のお客様だけではなく、飲食店に卸すこともしていますよね。
ありがたいです、本当に。現在卸しているのは、例えば喫茶キンバリーさん、うのベースさんをはじめ、玉野市内を中心に使っていただいています。玉野市外にも卸しているので、数えきれないですね。
オーナーさんの好きな味や店のイメージを聞いて、何の豆を使うか決めて、オリジナルブレンドを作らせてもらっています。その方の好みや店の雰囲気に合わせてブレンドするのは、店舗に下ろすならではの体験なので楽しくやらせてもらっています。
「面白そう」はやってみる合図

―お話を伺っていて、玉野に帰るときやみなと珈琲を開業するときなど、思いついたらフットワーク軽く行動されてきたのが素敵だなと思いました。
何ででしょうね(笑)。ただ私、基本的に運がいいんですよ。
東京のカフェで働いていたのも、玉野に帰ってきたのも、池上くんに拾われたのも、焙煎所で修業できたのも、開業したのも、全部。運で生きてます(笑)。
―運をよくする秘訣はあるのですか?
大前提として、「自分は運がいい」と思っておくということですかね。自分は運が悪いと思っていたら、運はよくならないので。ラッキー!ラッキー!って思っておく。それだけだと思います。
あとは「面白そうだな」と思ったら基本的にやっているのかなと思います。焙煎所にまめがずらりと並んでいたら面白そう!とか、2階で喫茶店をやったら隠れ家みたいで面白そう!とか。今思えば、面白そうと思ったものはやってきたのかもしれません。
―今後やりたいことはありますか?
現状維持が大事なのかなと思います。玉野のこの場所で、変わらずに焙煎して、美味しい珈琲を味わってもらって、2階の喫茶店ではのんびりしてもらいたいです。現状維持ってむずかしいので、引き続きみなさんの日常の一部になれるよう、がんばっていきたいと思います。
<詳細>
COFFEEROAST3710 みなと珈琲焙煎所
場所:玉野市築港1丁目10-31
営業時間:午前10時~午後6時
定休日:火曜、水曜
駐車場:あり
公式Instagram
喫茶みなと 2階
場所:みなと珈琲焙煎所の2階
営業時間:午後0時~午後6時(ラストオーダー午後5時30分)
定休日:火曜、水曜
公式Instagram
(取材/執筆:小溝朱里)